オバカンの山
還暦後(オーバー・カンレキ)の山行記録
last update : 2021.02.28
【山  域】北ア・穂高・明神岳主稜  上高地から奥明神沢経由日帰り登山
【日  付】2011年5月21日
【時  間】河童橋 7:05  岳沢入口 7:15  7号標識 7:45  岳沢小屋 9:20
      第1右俣出合 10:10  第2右俣出合 10:35~10:45  主峰基部 12:00
      主峰と2峰のコル 13:00~13:30  2峰 13:40~13:50  3・4のコル 14:30
      4峰 14:35~14:45  4・5のコル 15:00~15:15  5峰 15:35
      岳沢7号標識 18:05~18:15  岳沢入口 18:45  河童橋 18:55
【メンバー】単独行

ルート図
ルート(地図をクリックで拡大)

2週間前の5月4日に明神東稜を登った。その時は明神主峰まで登って、もう一歩も登るのはイヤと言うほど疲れたので5峰へ向かうのを止めて前穂との最低鞍部から岳沢に下った。
しかし東稜のバットレスがすんなり越えられたからか、主峰の目の前にある2峰の壁は何とも美味しそうに目に焼き付いて残ってしまった。
東稜に比べて岳沢側からだと雪渓をテコテコ登るだけなのでかなり時間は短縮できるだろう、と上高地からの日帰りを試みた。

いつものように前夜は沢渡岩見平駐車場で車中泊して、朝、軽く朝食をすませてシャトルバスで上高地入りする。
岳沢の奥明神沢をスキー滑走するNさんと、河童橋で分かれ先を急がせてもらった。
岳沢下部樹林帯で同年代ぐらいのテント泊の荷物の3人パーティを抜かさせてもらう。
7号標識から右へなだらかな尾根が明神5峰への踏み跡径、少し先で雪を渡るのが前明神沢で4・5のコルから下るとここに降りてくる。さて今日はどちらを下ってこれるのかしら?とこの時は余裕があった。
先日の台風1号の大雨で雪はすっかり消え、今日は、夏径通しに進む事になる。途中から雪の径になるがアイゼンは要らない。


奥明神沢入口から見る奥穂高南稜
奥明神沢入口から見る奥穂高南稜
扇沢大滝は露出している

岳沢左岸の径が小屋に向けて下っていく先で、小屋には用がないので直接奥明神沢へと向かうが、少しでも沈まないようにとワカン(芦峅ワカン)を早々に着用する。
まださほど気温が上がっていないからかワカンを着けてもアイゼンの人の足跡の潜り方もほとんど差がないように見えた。


明神西壁へのルンゼ
明神西壁へのルンゼ

奥明神沢も少し登ると両岸が立ち始めていかにも谷底って感じになると、右側から顕著な谷が入る。この谷は、明神西壁という超マイナーな岩場へのアプローチに使われる谷で、もうすでに中間部に滝が露出していた。


明神岳主峰へのルンゼ
明神岳主峰へのルンゼ
ルンゼの奥に明神岳主峰と2峰が見える  本日の登路

もう少し奥明神沢を登るとやはり右から顕著な谷が入ってくる。雪は上部までべったり付いていて、突き当たりに見えているのが明神主峰と2峰。そう、この谷が本日の私の登路になる。
奥明神沢より一段急な斜面なのでワカンでは無理、とアイゼンに履き替え、ヘルメットも着用する。
アイゼンも一蹴りでは不安なので2回蹴りでステップを作りながら登る事になるが、途中、三俣付近で少し傾斜が落ちるだけで後は奥明神沢から主峰と2峰のコルまで2回蹴りで登っていった。
歩行のペースはゆっくりなので息が切れるという事はないが足にはきつい登りが続く。


三俣
三俣  中央のルンゼを進む

三俣の中央のルンゼ入口
三俣 中央のルンゼ入口

三俣から見上げる岩場は、剣の長治郎谷から見る八つ峰6峰の側壁群にそっくりの雰囲気だ。


左の壁は明神岳主峰基部
左の壁は明神岳主峰基部
右側ルンゼの詰めのピークが2峰

三俣は真ん中の谷を詰めていくと、どん詰まりは主峰の基部の岩になる。そこを右手へ2峰とのコルを目指すが、雪の斜面の傾斜は一向に落ちない。
最後は、コルから距離で50m程のガレに乗るが、このガレを一つでも落とすと奥明神沢まで転がっていくのかと思うと慎重の上にも慎重にならざるを得ない。勿論アイゼンは脱いで行く。


明神岳主峰直下から見る奥穂高
明神岳主峰直下から見る奥穂高

2峰の壁
2峰の壁

コルから2峰の岩場のルート偵察に主峰側を登りかけるが右手から東稜の足跡と合流するところで主峰に登るのは止めてNさんと定時の交信、と言っても携帯電話だがを試みる。
SoftBankは圏外。auからNさんのSoftBankを呼び出すが、当然圏外なので、auからメールにしておく。
ところで、2峰の壁はどう見てもホールドとスタンスだらけに見えるが、一応、念のため、ハーネスを着けシュリンゲやヌンチャグ類をぶら下げて、ロープはザックの最上部に収納して取り付いた。
ホールドもスタンスも大きいと見たのでアイゼンは着用していない。東稜のバットレスはスタンスが小さかったのと雪が残っていたのでアイゼンのお世話になったが、ここはその助けは要らない、ビブラム底で登っていく。
20m程フリーで快適に登らせてもらうとお仕舞い。この先、5峰の下りでロープがいるとか要らないとかなのでハーネスは着けたままにして、ガチャ類はザックに戻し、すっきりしたところで5m程先の2峰のてっぺんに登る。


2峰から見る明神岳主峰と前穂高
2峰から見る明神岳主峰と前穂高

2峰から見る3峰と上高地
2峰から見る3峰と上高地
巻き径は雪田の一番細いところ
主峰と前穂のツーショットをカメラにパチリ。明神も前穂の周辺も誰も人影は見えない。
3峰は岳沢側を巻く、とあるので巻き径を確認しながら2・3のコルへ降りていく。
巻き径は、コルから3峰寄り少し行ったところから踏み跡がある。頂上からかなり離れていく。途中、雪が出てきたのでアイゼンを履いてピッケルも持ってみたがわずか10m程の残雪だったので、すぐまたアイゼンを脱いだ。気になるのは、この雪に過去の足跡が全然残っていない。巻き径を間違えたのか、それとも皆さんは3峰もてっぺんを越えて行かれているのだろうか。

3峰巻き径終了点から見る4峰と5峰
3峰巻き径終了点から見る4峰と5峰

稜線沿いの径に出て少し下ると3・4のコル。すこし登り気味に進むと4峰だが、3つほどピークがあって、どれが一番高いのかよく分からない。

この4峰からの景色も素晴らしい。

4峰から見る明神岳主峰と東稜のラクダの背
4峰から見る明神岳主峰と東稜のラクダの背

4峰から明神岳主峰、2峰、3峰を振り返る
4峰から明神岳主峰、2峰、3峰を振り返る

4峰から見る5峰と西南稜
4峰から見る5峰と西南稜

4峰から見るひょうたん池から宮川のコルと徳沢園
4峰から見るひょうたん池から宮川のコルと徳沢園
宮川のコル(中央部右端)は、もう雪はない
今巻いてきた3峰の向こうに主峰と2峰が並び、明神東稜のシルエットがなんと綺麗な事か。 2週間前に本当にあそこを登ったんだろうか、と思うほど美しい。
東稜は高度を落としてひょうたん池までよく見えるし、更に右へ、宮川のコルまでよく分かる。宮川のコルにもう雪は無い。そしてそのまま下には梓川と徳沢が見える。
更に右へと目を向けるとこれから行く5峰と下降路の西南稜がよく見える。
三角錐の明神主稜の格好良さに見とれて岳沢を挟んで見えている奥穂から西穂の稜線を見忘れるほど良い景色だ。時間が許せば何時間でも眺めていたい、たおやかな頂上だ。
4・5のコルはそれなりに深いし、5峰はしっかり登り返さねばならない。西南稜上部のテント地より4・5のコルへ巻いていく、と言う記録を見たような気がするが、4峰の上から見る限り踏み跡は見つけられない。
4・5のコルから雪が繋がっていれば、前明神沢を下るつもりでいたが、雪は相当後退していて前明神沢の下降は早々にあきらめた。
コルで15時の定時交信のためにauとSoftBankの携帯をオンにしたが、SoftBankは圏外だった。おかしいな~、3年前、前穂-奥穂の吊り尾根でパートナーがメールも通話もしていたのに。 auはアンテナ3本なので所在だけのメールを発信したら、不達のエラー。こちらも役に立たなかった。
最後の5峰はしっかりと登らされる。 その5峰も登り切ったと思ってもそこはまだ頂上ではなく、西南稜からの踏み跡に合流した。
そこにザックを置いて20m程先の頂上へ向かう。そう、この頂上からはいつも見上げていた河童橋を見てみたい。

5峰から明神岳主峰と奥穂高岳を振り返る
5峰から明神岳主峰と奥穂高岳を振り返る

5峰から見る西南稜と河童橋
5峰から見る西南稜と河童橋
この西南稜の下りで泣かされるとは思ってもいなかった
素晴らしい眺望を提供してくれた明神岳主稜の縦走もこの5峰で終わり。
360度の展望を満足したら後は西南稜を下るだけだ。
踏み跡を頼りに下っていくと径が消えた。下を見るとテント場のある尾根の一つ右の尾根に入っていた。おかしいな、ちゃんと踏み跡を来たのに、と思っても後の祭り。左の尾根に戻ろうと登り返すも大分上まで戻らないと行けないような感じ。えーぃ、邪魔くさい、と濃い這い松のブッシュ漕ぎ5m、続いて、5m雪田を越えて、再び這い松をこぐ事5m程で西南稜の踏み跡に出た。
あまり良い足場の径ではないので足元だけ見て下っていたのでひどい目にあった。これからは足下だけでなく遠くの目標も確認しながら下っていこう。
でもその先テント場まで来ると径ははっきりしてきた。
もう一段下ると3~4人用のテントが張ってあった。朝、岳沢下部樹林帯で抜かさせて頂いた3人パーティの方々だった。
これより下部は径がはっきりしているかどうかだけ情報をいただいた。
この西南稜、径ははっきりしているし、赤テープがいっぱいあって迷う事はないが、多くの登山者の単なる踏み跡でしかない。 登りならまだましかも知れないが、下りでは足の置き場が乏しいつらい下りだ。トラロープのあるところと思わしき地点の直前は左右からルンゼが雪を付けてこの尾根筋まで迫ってくる。ならば雪のルンゼを下らせてもらいましょう、とアイゼンを履いた。左右どちらのルンゼにも乗れそうだが雪がしっかり付いていそうな左のルンゼに入った。(明神南沢の源流部のルンゼかな?)
後ろ向きになってスタスタ下っていったが、やっぱり歩きにくいと前向きになって下り始めた途端、滑落。
やべっ、どうしよう。このアンチョコピッケルのピックでは小さくって滑落停止しても効きそうにない。
そうだグリセード風に止めてみようと左手でピッケルの頭を持ち、右手はシャフトを持って雪中に押さえつけたが滑落のスピードは変わらない、こりゃ駄目じゃ、下部は障害物はないか覗き込んだりしながら、やっぱりピックでの普通の滑落停止をしてみるしかない、とピッケルを右手に持ち替え、仰向けからエビのように跳ね返って俯せになる瞬間に雪面に突き刺すピックに全体重をかけるようにしたら、キーッと車が急ブレーキをかけたようにして止まった。 雪がぼそぼそで止まったの?と立ってみたら、アイゼンは雪面に潜り込まずにしっかり乗ってる。じゃあ傾斜が無くなったの?と下を見たら、変わらない傾斜どころか6~7m先には大きな岩が雪面から露出ている。それにぶつかって跳ね飛ばされていたら、と思うとゾッとした。
アンチョコピッケルと思っていたこのピッケルで止まったんだ。有り難い。
気を締めて再び後ろ向きに下り始める。暫くすると水の音が大きくなり、雪が消えているのが分かる。まさかこんな状況で沢下りをする気はない。尾根径に戻るしかない。
その尾根側には1本雪の付いたルンゼがあり、それを越えてブッシュの薄そうなところから突っ込んだ。
腐葉土のような斜面はアイゼン付けたままの方が歩きやすい。30m程のブッシュ漕ぎで尾根上の踏み跡径にでた。
ドロドロになったアイゼンは、ザックに入れる気がせず、オーバミトンでくるんでザックの上、天蓋の下に載せて、下降を開始するが足場のない下りづらい踏み跡径である事には変わりない。
樹林が薄くなって少し明るいところを見ると、おっ、そこが7号標識かとつい思ってしまうが、右手に見える岳沢はまだまだ下だ。
そんな踏み跡径を我慢して下っていくしかない。ここは、登りも傾斜があるのできついだろうが、雪が無くアイゼンを着けていない時期は下降に使う方がつらいと思う。
ようやっと辿り着いた7号標識、記念にと、つい写真を撮ってしまった。
もう上高地からの最終バスも出てしまった後。あわてても仕方がない、ゆっくりヘルメットも脱ぎ、スパッツもはずして、全部綺麗に梱包しなおし、すっきりさせてから下っていった。
通常、河童橋まで戻ってきたら、時間の記録の意味もこめて岳沢を写真に撮るが、今は、上部がガスに覆われているし薄暗くなっているので一歩も止まらず、バスターミナルへ戻ってきた。
携帯の電源を入れるとau機にもSoftBank機にもメールや通話呼び出しが幾つか入っている。勿論、Nさんからだ。
早速、電話してみる。心配かけて申し訳なかったのに、私は今から歩いて釜トンまで行き、更に、沢渡まで歩くと伝えたら、釜トンの出口まで迎えに来てくれるという。有り難い。Nさん自身は、もう新島島まで帰っていたのに釜トンまで戻って来てくれるのだ。本当にありがたい。
暗くなったバス道路をヘッドランプを右手に釜トン目指して歩いていると、1台の車が下っていった。そして暫くすると戻ってきて、釜トンまで乗せてもらえる事になった。どちらのお方か存じませんが、有り難うございました。
結局、最後は、人のお世話になりっぱなしの下山となってしまいました。



【オーバータイム】
最終バスに乗り遅れること1時間。
結果、Nさんに心配はおかけするし、お世話にならないと下山できなかった。申し訳ないです。
2週間前に小梨平から明神岳を登った時は、13時間かかっている。それを今回は11時間で日帰りしようと試みたのは無理だったようだ。
ただ弁解になるが、5峰の最遅予定時間の15:30には届いていたが、樹林帯の西南稜下降に苦しめられるとは思ってもいなかった。

【新しい道具・ピッケル】
今回も2週間前と同様、ピッケルは軽くて短い カンプのコルサ・ナノテク を持って行った。
見た目おもちゃのようなピッケルだが、短いピックでも滑落停止は完全に効いた。すごい奴。
昔のウッドシャフトピッケルよりむしろ効いた気がするが、もしそうなら、ナノテクモデルのあのベントが有効なんだろうと思う。
それに、このカンプのコルサ・ナノテクの特徴は、ブレードが実質無いに等しい。だから足場を切るなどと言う雪面のカッティングは全く出来ないだろうと思う。 けれども滑落停止の場合は、このブレード無しが有効に働いたと思う。通常は、滑落停止の時、ブレードは肩の上に出るので体重はピッケルにかかっていないが、このコルサ・ナノテクは脇の下に抱え込んで滑落停止できるので体重がピックにかかる。 結果、通常のブレードの大きいピッケルより、滑落停止はよく効いたとも思う。
これから心強い友になりそうだが、正直、滑落停止はもうやりたくない(笑)

【古い道具・ワカン】
この時期、ワカン、しかも芦峅ワカンという古風なワカンを持って山に入ると人から奇異な目で見られていると感じる。
確かに今の道具は、スノーシューであるし、仮にワカンでも二回りほど大きなアルミかジュラルミンの方であろう。 雪上の浮力も芦峅ワカンに比べてスノーシューの方が数段優れているので、新雪に覆われる3月一杯ぐらいまではスノーシューの季節だろうが、元々、芦峅ワカンは、4月以降の春の山で活躍した道具ではないかと思っている。
この推測は外していないだろうと思うが、今回は、下降に尾根筋を下ったので残念ながら芦峅ワカンの使用は、奥明神沢の登りの1時間程だけだった。と言う事で、今回のみでは評価しきれない。

【明神岳】
河童橋や梓川林道を歩いていてただ見上げるだけの明神岳だったが、この半月の間に2回も登る事が出来た。
明神岳は、主稜も東稜も登るのには岩登りの心得があれば、難しくはない。
ただ下降には良いルートがない。
今回の西南稜は、樹林の中の尾根径だが、下るのは非常に歩きづらい。泣きたくなるし、時間もかかる。
今回私が登った奥明神沢から主峰と2峰のコルに突き上げるルンゼは、下降に使うとコルから奥明神沢に出るまで後ろ向きに下る事になるのでは?と言う気がする程、傾斜がきつい。午後になって、雪が相当腐ってくれれば、前向きに下れるかも知れないが、腐った雪は腐った雪なりに歩きづらい。やはり、下降にはお奨めではない。
ルートとしては今ひとつ良いところはないが、景色は抜群だ。
主稜では岳沢をはさんで奥穂から西穂の稜線がいつも目を楽しませてくれるし、何よりも明神岳主峰の鋭峰が美しい。
遙か下の河童橋や梓川を見ているとすごく満足な気分になってくる。
主峰近くで見る前穂高は威風堂々としてる。
これほど素晴らしい景色を提供してくれている明神岳を訪れないのはもったいない。


 2011.05.21 北ア・穂高・明神主稜に関する 掲示板  
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