オバカンの山
還暦後(オーバー・カンレキ)の山行記録
last update : 2021.02.28
【山  域】穂高・奥又白池から前穂高
【日  付】2013年8月28日
【時  間】上高地バスターミナル  5:20  明神  6:00  徳沢  6:45~ 6:55
      松高ルンゼ出合  7:50~ 8:10  中畠新道合流  9:25~ 9:35  奥又白池 10:20~10:40
      踏替点 11:45~11:55  A沢のコル(前穂高-明神岳の稜線) 12:55~13:15  前穂高 13:40~13:45
      紀美子平 14:10  岳沢パノラマ 14:40~14:45  岳沢小屋 15:35~15:45
      7号標識 16:35~16:40  岳沢入口 17:10  河童橋 17:25
【メンバー】単独行

ルート図
ルート(地図をクリックで拡大表示します)
【今度は行くぞ、奥又白池から明神岳縦走へ・・・】

3週間前の小梨平ベースキャンプ登山は、とても登山といえる体をなしていなかった。
初日目からまったりモードで、岳沢を眺めているだけで幸せって感じで登る気力が全然湧いてこなかった。
さすがにこれで夏を終わらせる訳にはいかない、と気合いを入れて上高地から奥又白池経由の明神岳縦走を試みた。
今回は、沢渡駐車場で車で前泊して、初発バスで上高地入りした。
下山は、最終バスはもちろんタクシーにも間に合いそうにないので、上高地から釜トンまでは歩いて出ることにして車はそれなりのところに駐車した。
日没後に上高地に戻ってくることにはなるが、時間無制限では危険すぎるので、明神5峰西南稜のトラロープ帯をヘッドランプ無しで通過することをタイムリミットとして計画した。

日帰りを試みる程に気合いだけは充分だったが、残念ながら気合いで何とかなるコースではなかった。



明神岳の全容
明神岳の全容
上高地から徳沢へ、刻々とその姿を変える明神岳を眺めながら歩く
写真は、明神から10分ほど先から見上げる明神岳
左端は明神5峰、右端は前穂高北尾根
5月の残雪期はどこからでも登ってみたくなる


最盛期は賑やかだった上高地もかなり人は減った。
小梨平テント場から先へ行く人は殆ど居ない。
「待っててネ」と、梓川の向こうに聳える明神岳を見上げながら徳沢へ向かった。


松高ルンゼ
松高ルンゼ
涸沢へのパノラマ径の松高ルンゼ出合から見上げる


新村橋を渡って梓川右岸林道へ入り、涸沢へのパノラマ径へ進む。
パノラマ径入口のワイヤーははずされていたので、涸沢まで開通(登山道整備=雪切り)は終わったのだろう。径の下草も刈られていて葉露に濡れることなく歩ける。
徳沢から松高ルンゼ出合まで、今までは1時間を割ることはなかったのに、今日は1時間を切って到着できた。
今日は、調子が良いらしい。

いつものように中畠新道には入らず、松高ルンゼを登り、標高2250m辺りで中畠新道と合流して奥又白池へ登っていく。
前穂高北尾根5・6コルへのトラバース径の直前で、荷物はおろか水も持たない男性に追い越された。
奥又白池では、中又白谷の水場へ一口ご馳走になりに行ってきた。手が痛いほどに冷たい水が湧いていた。


目指す明神岳主稜
目指す明神岳主稜と東稜の頭
梓川からは首が痛くなるほど見上げていた明神も随分近くなった
バットレスはよ~く見ないと分からないほどショボイ

奥又白池
奥又白池
一段上から奥又白池を見下ろす
3週間前は咲き誇っていたコバイケイソウは終わっていた

前穂高北尾根4峰正面壁
前穂高北尾根4峰正面壁
奥又白谷に落ちる壁の迫力は強烈だ

踏替点へ向かう尾根
踏替点へ向かう尾根
踏み後ははっきりしていて危険はない
折角奥又白池まで登って来たら是非ここまで上がって欲しい


池から踏替点へ向かう尾根筋の踏み後は、標高2650m辺りまでしっかり付いていて全く危険はない。
ここまで登ってくると、前穂高東壁や北尾根4峰正面壁を間近で見ることができ、その迫力に圧倒される。
折角、池まで上がってきたら、是非、ここまで足を伸ばしたい。

でも、この先は、技術や装備がないと危険な領域になる。


踏替点直下のガレ
踏替点直下のガレ


踏替点の近くまで来ると尾根筋の踏み後は消えて、左手のガレを登るようになる。
ガレ場なので踏み跡は勿論ない。
ガレを崩さないように大人しく進むと神経も使うし、歩くスピードはイヤほど遅くなる。


A沢から踏替点を振り返る
A沢に少し入って踏替点を振り返る

踏替点から登路を振り返る
踏替点から登路を振り返る


以前は、3m程の垂壁を登って踏替点に出たと記憶しているが、今回はガレのまま踏替点に到達した。
踏替点は細長いのでテント設営が出来る広さはないが、ガレから解放されるのでゆっくり休める。
但し、いつも日影なので風があると寒いかも知れない。


踏替点からA沢
踏替点からA沢を見上げる


踏替点まで来るとA沢全部を見上げることが出来る。
踏替点からA沢のコル(稜線)までは、標高差で僅かに150m、水平距離も200m足らずと短いが、傾斜のあるガレなので今まで以上に登りにくい。
しかし今回は、中間部にある雪渓はズタズタではなく、有り難いことに繋がっているのを確認して一休みした。
ザックの荷物も入れ替えた。
ピッケルはザックの外に付け、アイゼンと軍手をザックの最上部に入れて、ヘルメットは着用して登りだした。


ローカットシューズにアイゼン装着
ローカットシューズにアイゼン装着


雪渓の末端でローカットシューズに12本歯アイゼンを装着した。
計画書ではチェーンアイゼンと書いていて提出したが、A沢が急だったのを思い出し、12本歯を持ってきた。
そして軍手をはめてピッケル持って雪渓に乗ると、簡単に雪渓の上端まで登っていける。


雪渓の下端から上を見る
雪渓の下端から上を見る

雪渓の上端から下を見る
雪渓の上端から下を見る

雪渓から上は更にガレがひどくなる
雪渓から上は更にガレがひどくなる

左岸の岩をホールドにガレを登る
左岸の岩をホールドにガレを登る

A沢のコルまであと少し
A沢のコルまであと少し
だがここで左岸の安定した岩も途絶えた


雪渓から上はガレがひどくなった。傾斜もきつい。
自分が岩雪崩を起こしてそれに巻き込まれそうな感じもしなくもない。
慎重に行こう。
幸い左岸の岩が安定しているようなので、右手は常それをホールドにしてガレを登っていったが、最後の2~30mで右手の岩も無くなった。
浮き石にだましだまし乗ってなんとかA沢のコルまで出た。
濡れたアイゼンをザックに入れるのがイヤで手にぶら下げてきたが、やっぱり両手が使えた方が登り易い。少し反省(多分していない、渇!!)。


A沢のコルから下を見る
A沢のコルから下を見る
踏替点も奥又白池も見える

前穂・明神の主稜線はまだ少し先
前穂・明神の主稜線はまだ少し先


登り切ったA沢のコルは、茶臼の頭へ延びる一尾根の最上部にあり、前穂高と明神岳との主稜線は更に20m程先になる。
A沢のコルからも目指す明神岳主峰がよく見えるが、休憩はもっと見晴らしの良い主稜線に出てから取ることにする。


明神岳主峰と2峰
明神岳主峰と2峰


主稜線に出て、行動食を摂りながらこの先の時間計算をする。
元々の計画では、13:30にここA沢のコルを出られれば、日没前に5峰西南稜のトラロープ帯に着けると見ていたので、今回は充分間に合うはずだ。
ただ見た感じ、ここから明神岳主峰は想像していたより遠く感じる。
上り下りを繰り返してではあるが、5峰まで合計で200m程の登りがある。
でも、頑張れば何とかなりそうだし、少なくとも夜まで天気が崩れそうな気配もない。

明神岳へ向かうのを前提にザックを整理する。
もう使うことはないアイゼンとピッケルをザックの底の方に戻し、ハーネスにするシュリンゲや補助ロープをザックの上部にしまった。


前穂岳へ向かう途中から見る奥又白池
前穂岳へ向かう途中から見る奥又白池
三本槍と前穂高のコル当たりからか?


ザックを担いで一歩歩き出して、やっぱり前穂高へ逃げよう、と決断した。
今日はこれ以上は無理だ、と弱気を出してしまった。
今ひとつ下腹に力を入れる元気がない。
行動食も殆ど減っていない。

あと標高差で100mも登ると前穂高にでる。
そう思うと一気に気が楽になった。
でも、慎重に、踏み跡を拾いながら登っていった。


前穂高山頂
前穂高山頂


ガレから解放されて気楽に登ると30分足らずで左手の重太郎新道と合流して山頂に出た。
「前穂高さん、また来させてもらいましたよ」と挨拶する。
私の登山人生50年近くで一番登らせてもらっている山がこの前穂高だ。
一昨年、もう来るのは無理かも知れないと思い、万歳三唱した。
その前穂高に来れるのはやっぱり嬉しい。
今回はあつかましくも「また来させて下さいね」と挨拶して山頂を後にした。



岳沢パノラマ
岳沢パノラマ
見晴らしは良いが岳沢小屋ははるかに下だ
右上の河童橋はウンザリするほど遠い

明神主峰と2峰
明神主峰と2峰(右)
一昨年の5月、この主峰と2峰へ上がるルンゼを詰めた

奥明神沢のコルから明神2峰
奥明神沢のコルから明神2峰
右端が明神2峰、左端は前穂と明神の最低鞍部

奥明神沢のコル
奥明神沢のコルをズームアップ


時間的にはそれなりの速さで下っているが、普通、重太郎新道はもっと軽やかに歩いているのに比べて今日はやっぱり足が重い。


明神5峰西南稜の取り付・7号標識
明神5峰西南稜の取り付・7号標識
あーぁ、このロープをゴールに降りてきたかった


天気が良いので岳沢小屋は賑わっていた。
小屋から上高地は距離はあるが傾斜が無く歩き易いはずだがやっぱり足が重い。
今日は明神岳を目指さなくって正解だったと思う。




【明神の日帰り縦走は難しい】
明神岳縦走に、初発バスで上高地入りして最終バスで帰ってくるのは、私には到底無理だ。そんなに速く歩けない。
それで今までは、夜中に釜トンを歩き出して1時半頃上高地入りするのを何回か試みたが、ことごとく早々に敗退している。
睡眠調整に失敗しているのだ。
今回は、沢渡で仮眠を確実にとって初発バスで上高地入りする、その代わり、上高地への下山はヘッドランプ覚悟(注)でその先釜トンまでも歩きになる策に出た。
これはどうやら当たりだったようだ。
今回は、残念ながら明神岳をあきらめて前穂高に逃げたが、次回の可能性が見えたのが嬉しい。
それにしても強くなったものだと思う。
実はこのコースは今回で3回目だ。
1回目は、5年前の2008年9月。
このときは、A沢の登りで疲れ切って山頂の数十m下を重太郎新道へトラバースして前穂高には立てなかった。
2回目は、そのリベンジで、3年前の2010年7月。
A沢が雪渓で繋がっている時を選んで行って、なんとか前穂高に到着できた。嬉しかった。
そして3回目が今回。
前穂高は目指したのではなくエスケープに利用したのだ。
生意気にも程があると思う。
でも、それほどに強くなったとも言える。我ながら大したものだと思う。

ところで、この明神岳縦走、常識的には5峰から4・3・2そして主峰を目指すのがルートだと思う。
それを逆コースで行く理由は、2峰の壁だ。
この壁、登るのなら、今の私でもアプローチシューズでロープ無しで登る自信があるが、下降には靴に関係なく懸垂するしか方法がない。 従って、ロープが必要になる。 このロープを担ぐ体力がない。 それで2峰から主峰を目指すことは出来なくなり、主峰から2峰を目指すコースになる。

明神岳縦走、それだけが目標なら、重太郎新道から前穂高に至り、そこから明神岳縦走に入るとかなり時間的に楽になると思う。
しかし、私は、何故か、奥又白池から明神岳へ繋ぎたいのだ。
自分でも理由は分からない。

今回もまた失敗に終わったが、次ぎ、を狙う目標となるのでそれはそれで有り難い。

(注)「ヘッドランプ覚悟」について
ヘッドランプで稜線歩き、それはない。冒頭でも書いたように、滑落の危険性のあるところは明るい内に通過する様にタイムリミットを設定する必要がある。
今回のコースで言えば、明神5峰トラロープ帯であり、重太郎新道であり、中畠新道の通過がそれに当たる。
夜明け前の登りでこれらを通過する計画は可能だろうが、深夜に向かう時間帯の下降に使うのは危険すぎる。




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